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東京高等裁判所 昭和51年(ネ)1288号 判決

控訴人

福島肇

右訴訟代理人

向井孝次

被控訴人

村松建設株式会社

右代表者

鈴木明

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

控訴人が、債権者株式会社静岡相互銀行、債務者被控訴人、所有者魯淳香間の横浜地方裁判所昭和四四年(ケ)第二六八号不動産競売事件において、昭和四九年三月一日に、右競売の目的物である本件建物につき競買価額二一、六五一、〇〇〇円をもつて競落許可決定を受け、同年九月一〇日右代金額を納付したこと、本件建物の敷地には、借地権その他の敷地利用権が設定されていなかつたこと、はいずれも当事者間に争いがなく、控訴人が昭和五〇年七月一八日被控訴人に送達された本件訴状をもつて、被控訴人に対し右競売における契約を解除する旨の意思表示をなしたことは記録上明らかである。

そして控訴人は、右のような場合には民法第五六八条第一項、第五六六条第二項の類推により競落人は債務者に対して契約の解除をすることができる旨を主張するのであるが、民法第五六八条第一項の規定が任意競売にも適用せられるべきことは控訴人主張のとおりとしても、第五六六条第二項の規定は、売買の目的たる権利に同条所定の瑕疵が存する場合につき、取引における信用の保持および公平の見地から特別の定を設けたものと解され、他方、抵当権実行による建物の競売は、必ずしもその敷地使用権の存在を前提として行われるものではなく、したがつて、その競売における建物移転の契約において敷地使用権の移転が当然に予定されているものとみることはできないばかりでなく、債務者ないし所有者の意思に基かない建物の任意競売において、建物の敷地使用権の設定がなく、その事実が予め告知されなかつたとしても、その責を債務者ないし所有者に帰せしめることができないことも明らかといわなければならないから右のような場合につき民法第五六八条第一項、第五六六条第二項を類推適用することは許されないものと解するのが相当である(なお、この点を積極に解するとしても、民法第五六八条第一項による解除をする場合において、債務者と物上保証人とが存するときは、解除の意思表示は債務者に対してではなく、物上保証人に対してなすのを相当と解する。)。

そうすると、控訴人の右主張は、いずれの点からいつても失当というほかはないから、本訴請求はその余の点について判断するまでもなく理由がないからこれを棄却すべきである。

よつて、これと同趣旨の原判決は相当であつて、控訴人の本件控訴は理由がないから棄却し、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(江尻美雄一 滝田薫 桜井敏雄)

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